身の回りにあるスマートフォンやパソコンは、単なる通信手段や作業ツールとしての役割を超えて、日々の生活のあらゆる記録を蓄積する個人の財産となっています。これらの機器には、写真や動画といった思い出だけでなく、連絡先やメッセージ、電子メール、各種アカウントへのログイン情報なども保存されており、まさに個人の人生そのものが詰まっている存在といえます。人が亡くなった際に残るこれらの電子機器に保存されたデータが、近年「デジタル遺品」として注目されています。
デジタル遺品という言葉は聞き慣れない方も多いかもしれませんが、その対象範囲は極めて広く、遺族が適切に扱わないとトラブルや個人情報の流出といった問題を引き起こす可能性もあります。特にスマートフォンやノートパソコンといった個人使用の機器には、クラウドサービスやSNSといった外部連携のデータも含まれており、削除や管理を怠ることで第三者による不正アクセスのリスクも生じます。
また、故人が使用していたスマートフォンやパソコンには、複数のアプリやソフトウェア、サブスクリプションの契約が存在することも多く、遺族にとってはその全容を把握することが困難なケースがほとんどです。これらを適切に整理するには、専門知識と慎重な対応が求められます。
以下の表に、主なデジタル機器とその代表的な保存データの例を整理しました。
デジタル機器の種類と保存される代表的データ
機器の種類
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保存されている主なデータ
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スマートフォン
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写真、動画、SNSアカウント、連絡先、メッセージ、アプリ内情報
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パソコン
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文書、写真、オンラインアカウント情報、金融データ
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タブレット
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メール、メモ、クラウド接続ファイル、購読サービス情報
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外付けハードディスク
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バックアップファイル、写真・動画データ、過去の業務記録
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デジタル機器の特徴は、電源を入れてもすぐに中身が見えるわけではなく、ロック解除やIDパスワードの入力が必要な場合が多い点にあります。パスワードや指紋認証などで厳重に保護されていることで、プライバシーが守られている反面、遺族がそれらにアクセスできないまま放置されてしまうことも少なくありません。
そのため、生前にこうした機器に関する管理を家族と共有することや、必要に応じてエンディングノートなどにまとめておくことが重要です。万が一のときにスムーズな整理ができるよう、備えておくことが家族にとって大きな安心につながるでしょう。
デジタル遺品の中でも特に見落とされがちなのが、ネット上に存在するアカウントやサービスの情報です。例えばSNS、通販サイト、メールサービス、クラウドストレージなどは、端末本体に保存されていなくても、インターネット上にその情報が残っているため、整理対象として見逃されやすい領域です。
これらの情報は、パスワードが分からない場合にはアクセスすること自体が困難であり、場合によっては完全に消去できないこともあります。また、支払いが続いているサブスクリプションサービスや自動更新の契約がある場合、放置すると料金が発生し続けるため注意が必要です。
特に次のようなサービスは、確認漏れによるトラブルが発生しやすい傾向にあります。
ネット上の代表的なデジタル遺品一覧
サービス分類
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主な内容
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放置リスク
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SNS(例:Facebookなど)
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プロフィール、投稿、メッセージ
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なりすまし、個人情報の悪用
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クラウドサービス
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写真、文書、バックアップファイル
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外部からの不正アクセス
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通販サイト
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購入履歴、登録カード情報
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個人情報漏洩、料金請求の継続
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メールサービス
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登録情報、認証リンク、通知
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サービス停止により重要連絡喪失
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動画・音楽サブスクリプション
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毎月課金の自動契約
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不要な課金が継続
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ネット上にある情報は、実物のように目に見える形では存在しないため、遺族がその存在自体に気付かないことも少なくありません。その結果、重要なデータが消えてしまったり、料金が継続されてしまったりするなど、さまざまなトラブルが後を絶ちません。
このような事態を避けるためには、故人が利用していたサービスやアカウントを一覧にまとめておくことや、IDとパスワードを安全に共有しておくことが有効です。また、サービスによってはアカウント削除の専用窓口が設けられている場合もありますので、公式サイトで確認し、手続き方法を把握しておくと良いでしょう。